子どもたちから「忙しい〜」「遊ぶ時間がない〜」という声を聞きます。
保護者さまとお話していても、「いまの子たちは忙しいですよね〜」なんて話になることもありますが、学校の拘束時間が長くなったり、塾や習い事をいくつも掛け持ちしている子たちを見ていると、ほんとに大変だなと思います。
21時や22時頃に駅で塾のかばんを背負った小学生を見ることがありますが、朝8時から16時まで学校、その後、21時、22時頃まで塾という子たちを見ていると、大人より長時間労働だし、まだ体も小さく体力的にもきつく、大人とちがい自由裁量でつかえる時間やお金も少ない分、よりハードできびしいだろうな…とおもいます。
もちろん、保護者さんも忙しい。毎日の家事や塾や習い事の送迎、さらには働いている方もいたりと、「家事は女性がやるもの」「家事をしない(外注する)なんてもってのほか」なんて意識でいると、忙殺されてしまいます。
子どもにとって大変な時代だな…と思いつつ、大人にとってもなかなかハードな世の中。
先日の日本経済新聞電子版に書かれていましたが、日本の出生数が急減しているそうです。このままいくと2019年は90万人を割る可能性が高いのだそう。2016年に100万人を割ってからわずか3年で90万人レベルと、そのペースに驚きます。
まずは日本自体がハードモードになっているということを踏まえた上で、戦略を立てていかなくてはいけないなと感じています。
昭和とは完全にちがう状況のなか、できるだけ効率的に時間をつかい、意識的に豊かさを感じられる時間を増やしていきたいものです。
「時間がない」といっている子たちを見て、話を聞いていると、「たしかに、それは詰まりすぎ。きびしい…」という子もたまにいますが、どちらかというと、「時間の余裕がない」「時間の余裕を感じられていない」というのが多いなと思います。
そして、スマホの通信速度が落ちたときのように、脳の処理能力が落ちている状態になっている、それも慢性的なものになっているのだろうなと感じたりする子もいます。
「時間がない…」
↓
「焦りや不安」
↓
「脳の処理能力が落ちる」
↓
「生産性が下がる」
↓
「ますます時間がなくなる」
というループ。
このループにはまると、なかなか自力で抜け出すのは困難だし、精神論に走って自分を追い詰めてしまうと大変なので、意識的に行動を変えていきたいものです。
ということで、今回は「時間と心の余裕をつくり、生産性を上げるためにできること」として書いていきたいと思います。
時間と心の余裕をつくるためにやってほしいこと。
それは「時間割をつくる」です。
学校で時間割があると、「明日は朝から体育があるな」など、自動的に体と心の準備ができるように、できるだけ、自分が楽しくて、安定して成果を出せて、遊びも勉強も満喫できるような時間割をつくっていきます。
そのためには、いまの時間の使い方をチェックし、「理想の状態になるための時間の使い方」を決め、行動を変えていくことが必要。
「生産性」というものは、「アウトプット÷インプット」。
「アウトプット」、どれだけの成果物を出し、そのために、「インプット」、どれだけの時間やお金を費やしたかによって決まります。
少ない時間やお金で、たくさんの成果を出すことができれば、それは生産性が高いということになります。バランスを見ながら、最適化していければいいですね。
ここで大事なのは、時間をたくさんかければ、どんどん生産性というのは下がるということ。
「子どもがたくさん勉強をするようになって、成績が伸びました!」
これはたしかにすばらしいのですが、勉強時間を増やせば、成果が増えるのは、ある程度、当たり前といえば当たり前で、それは「生産性が上がった」ということではないのですね。
そして、勉強時間を増やすというのは、いちばん危険な考え方でもあります。それは、時間というのは、かけようと思えば、食事の時間を減らしたり、遊ぶ時間を減らしたり、睡眠時間を減らしたりすれば、簡単に増やすことができるから。
進学塾だと、すごい量の課題を出されたりしますが、素直な子や、まじめな親御さんだと、言われたら全部をやらないといけないと思ったり、全部を終わらせようとし、体力や精神の限界がくるまで「がんばる」でしょう。
でも、それでは、子どもや親御さんの心や体に影響が出てしまい、最悪な時には、親子関係もこわれてしまうかもしれません。
そうならないよう、投入する時間は限度を決め、できる限り増やさないようにすることが大切です。
つねに、「時間は短く」、「成果物は大きく」を軸に考えていくことです。
そのためには、当たり前ですが、必要なことを見極め、必要なことに力を注ぐこと。
そして、「すべてはできない」という、いい意味での割り切りを持つこと。
「やっておいたほうがいい」ということを考え出すといくらでも量は増えていくので、「何時には課題が残っていても終える」など、時間的な制約などを決めておきましょう。
それでは、実際に「時間割づくり」に入っていきますが、具体的には3つのステップを踏んでいきます。
①自分の時間の使い方を知る
時間と心の余裕をつくるにも、生産性を上げるにも、まずは、「いまの自分の時間の使い方を知ること」です。
当たり前なのですが、時間は誰にとっても「24時間」なのですね。
学生時代、本当に賢いなと感じる子は、どちらかというと、のほほんとしていたりする子でした。
僕の数倍(いや、何十倍?)も賢かったですが、彼らが、僕の数倍勉強していたわけではないのですね。勉強もクラブも、あまつさえは、恋愛などもしているという「リア充」だったのです。
社会人でいうと、仕事で成果を出し、仕事終わりや休日は遊びを満喫し、家族との関係もうまくいっているというような感じ。実際、よくしていただいている経営者の方たちを見ていると、僕の軽く数十倍の成果を出されていて、よく旅行に行っていたりなど時間と心の余裕を持たれ、家族とも仲良く幸せに暮らされていますが、その方たちが、僕の数十倍働いているわけではないんですよね。
「時間の使い方」がちがうだけなのです。(毎回、そういう方にお会いするたびに質問させてもらいますが、「時間の使い方なだけだよ〜」といわれます)
「時間」というのは、形のないものですが、形のないもの、見えないものは変えようがありません。
ですので、最初にしなくてはいけないことは、自分の今の時間の使い方はどうなっているんだということを「見える化」すること。
「家計簿」をつけるようなもので、「なんで月末にこんなにお金が減っているんだろ…?」と思っても、「支出」の記録がないと、どこの予算がオーバーしていたのかわからないですし、来月、どうしたらいいのかということも計画できません。また、わからないと「来月は節約しよう!」という精神論になってしまいます。
まずは、手帳や表などを用意し、何に、どれくらい時間を使っているのか、「時間の家計簿」をつけてみましょう。
②固定時間をうめる
今の時間の使い方がわかったら、次は、「固定されている時間」や「睡眠時間」を埋めていきます。
毎月かかる「家賃」や「食費」、「電気代」などの「固定費」があるように、時間にも、「固定のもの」があります。
子どもだと、「学校に行っている時間」や「必要な睡眠時間」があるので、それらを埋めていきます。
ここで大事なのは、脳のためにも、「睡眠時間」は絶対に削らないようにすること。子どもの脳と体の成長のために、「最低でも8時間」は欲しいところです。
ノースフロリダ大学心理学教授のトレーシー・アロウェイによると、ワーキングメモリー(頭がいい子はこれが強いです)を発達させるには、5〜12歳の子どもでは「10〜11時間」の睡眠時間が必要だそう。なかなか、そこまではきびしいかと思いますが、「8時間は厳守」の気持ちで設定してくださいね。
そして、この時点では、「習い事」などの時間は含めないようにしてください。それをやってしまうと、「これは必要」などの思考が働きます。これらは、「ほしい」という感情とはちがうので、これを先にやってしまうと、今までの時間の使い方から変えていくことができません。
最低限必要な生活費があるように、最低限「かかる時間」を埋めていきましょう。
③理想の時間の使い方を決める
いよいよ最後です。
最後にやることは、「子どもがどうなりたいのか」、「家族として、どんな暮らしをしていきたいのか」に合わせ、残っている時間を割り振っていくこと。
理想の生活への「旅行のプラン」を練るような楽しい時間です。
旅行でいうと、移動時間や待ち時間、ホテルでゆっくりする時間や朝食や夕食をとる時間を除いた残っている時間を、「自分のやりたいこと」や「なりたい気分」に合わせ埋めていきます。「遊びの時間」や「ぼーっとする時間」というのも含めて計画していきましょう。
「○○中学に合格する!」ということだったら、そのために必要な時間を入れていきます。
おいしいものを食べることが好きなら、おいしい店がある場所をたくさんまわれるように計画を立てる。買い物が好きなら、その土地ならではのお店や、ショッピングモールをまわれるように計画を立てる。
そんな風に、「子どもや家族がなりたいもの」に合わせた「時間割」をつくっていきます。
その際、作り方にもコツがあります。
それは、「子どもや自分のタイプ」、「エネルギー」、「処理能力」を考慮してつくること。
「朝型や夜型などのクロノタイプ」
「ショートスリーパーやロングスリーパー」
「自分の部屋の方が集中できるか、カフェや図書館などの公共の場所の方が集中できるのか」
など、その人固有のタイプ、自分の「調子のいい時間帯」というのがあります。
子どもだと、学校から帰ってきた後は疲れているので、帰宅後すぐに勉強をするなどは、なかなか厳しいです。スマホの充電が残り20%、電波が悪い、ようなもので、処理能力もかなり落ちています。
「栄養補給」や、ぼーっとする、15分ほど目を閉じる(仮眠ができれば理想ですが、夕方になっていると睡眠に影響するのできびしいところです)などの時間を組み込めるといいですね。
また、「夜型」の僕にとっては「朝活」というのは地獄なように、その子にとってベストな時間と場所というのがあります。それを考慮し、「いつ、どこで、どのように、なにをするか」の具体的な計画を決めます。
行動科学では、この具体的な計画のことを「実行意図」というのですが、人間というのは、心理的に、一度決めたことは、守りやすくなります。
また、人間は「できるだけ考えない」ようにできていて、考えることはたくさんのエネルギーを使います。ですので、あらかじめ決めておくことで、「脳のエネルギーのムダな消費」を防ぐようにします。
先延ばしとモチベーション研究の第一人者、ピアーズ・スティール教授は、
エネルギーを補充し、賢く使うためには、
・午前中や、お昼前後の時間に、難しい課題を行う
・空腹にならないようにする
・規則正しい睡眠をとる。そのため、就寝前の行動を決めておき、同じ時間にベッドに入る
・週に何日かは身体を動かす
ことなどが大事といいます(運動の効果についてはまた別の機会に)。
面談などではこれらを行い、バランスを見ながらアドバイスさせてもらっていますが、そうでない方も、時間の使い方で困っているなという方は、これらのことを踏まえ、ぜひ、一度つくってみてくださいね。
そして、時間割は目標や時期によってどんどん変化するものです。やってみた結果を考慮しながら、何度もつくりかえていってくださいね。
子どもが、そして、大人も時間の使い方がうまくなり、たくさんの充実したひとり時間や家族時間が過ごせるようになりますように!